僕はここにいる
父の恋の話を聞いたのは、20歳の時だった。
二人でお酒を呑みに行ったとき、
まるで、女友達に話すように、私にその話をした。
父は、そのとき、46歳。
遠い日の恋の話を、せつせつと私に語った。
私は、その話を聞きながら、せつなくなった。
父のその恋を終わらせたのは、私自身だったからだ。
私が、母のお腹に宿ったことで、父はその恋を終わらせた。
今なら、もっとわかる。
あの頃の父の年齢に、私も近づいている。
父は、私にとっていつまでも父だけど、
一人の男の人でもあったんだ。
なら、母は、どうだ?
母もそうだ。
一人の女の人だったんだ。
求めながら生きてきた。
誰かに愛されない人は、誰かを愛せない。
誰かを愛せない人は、誰かに愛されない。
その公式は、時々、不等式になることもある。
イコールで繋がれば幸せ。
不等号になれば、どちらかが淋しい。
私は、男だった父も、女だった母も、愛している。
今の私から見たら、
父と母のベクトルは、少しずれながらも、等式になっている。
時間の流れって面白いね。
あれから、父は恋をしたのかな?
また、二人で飲みに行って聞いてみようか。
また、私はあの頃のように、驚かず静かに聞きながら、心をせつなくするだろう。
今度は、きっと、周りの誰かに、その姿を重ねながら。
「ため息だけがしじまに消えて行った 帰り道
遠い空 揺れている町並み
すべてに君の優しい微笑が離れない
手を伸ばしても届かない場所にいる
もっと君の事 知りたいよ
悲しみも囁きも全部見てみたい
苦しいよ 今度いつ逢える?
遅すぎた出会い胸にかみしめている 痛いほど
気づいたら 夜は終わり始めてる
うまく君の名を呼べないよ せつなくてむなしくてつぶされそうさ
わかるかい? 僕はここにいる
報われないつかの間の夢ならば、せめて偶然の時だけでも
はかない泡沫の恋なら せめて今君の声だけでも
救われない痛みだけの気持ちだけでいい
傷ついてもそれでかまわない
できるなら いますぐ抱きしめたい 二人だけの約束を交わしたい」
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